サイト案内螺旋機構(小説目次)「輝の標」目次 / 「Thank you for the Music」目次前頁次頁


Thank you for the Music (4)

 二か月も酒場でうたっていると客が好む歌もわかるようになり、また以前から少なくはなかったレパートリーもさらに増えて、ある程度の要求までなら柔軟に対応できるようになった。常連客は気のいい人間ばかりで、シャルが知らない曲は彼女のところまで出てきて太い声で朗々とうたいあげてくれた。彼女の心配していたようなことは起こりようがないほど客の質はよく、女将もシャルに気を配ってくれていた。もっとも、シャルがうたっている間は一時的に客の回転が落ち、注文もちらほらとしか入らないためそのようなことができたのだが。
 シャルがはじめて足を踏み入れたときには燃え立つような色をした落ち葉におおわれていたフラッセアの優美な都は今、冬の盛りを迎え、うっすらと雪化粧を施された街並みが新年を前にしてほの白く輝いている。赤い屋根の三つの店は、身体をあたためる杯や夜の寒さをしのぐ一夜の宿、そしてからっぽになった胃を満たす食事とを求める人々でいっぱいだった。
 すっきりとうつくしい中に純朴さをのぞかせる金髪の少女がうたう時間帯には、酒場は人で溢れかえっていた。湖水の瞳のシャルディーレは明るく快活で酒にも強く、父親のような年の男たちに懐くのも早い。彼らはシャルの横にくっついているふたりの少年にも杯を押し付け、ジェフとクリューの父親の代わりのようにふたりをかわいがっていた。
 とまどった様子で男たちに接するふたりの姿は、シャルの想像が正しかったことを物語っていた。父親が、ないのだ。
 ちくりと痛む胸を押さえ、いつものように夕食を摂らせてもらってからカウンターの前へ出て行く。
 女将がシャルを見て華やかな笑みを見せた。藍色の夜空と黒い帳をそなえた瞳。息子のクリューもそうだが、顔のこまごまとしたつくりが繊細で、威勢のいい性格とは反対にはかなく消えてしまいそうな風情の人だ。姉である酒場の女主人もそれによく似た容貌をしているが、その特徴がもっとも顕著にあらわれているのは女将とクリューの親子だった。
 その若々しい女将の前のカウンター席に、赤茶けた色の髪の毛をしたひとりの青年が座っていた。引き締まった頬と顎の線に赤っぽい髪の房が垂れかかり、若さのみなぎる茶色の瞳を見え隠れさせている。
 青年に連れはいないようだったが、女将がシャルから彼に視線を移し、にこやかに話し掛けている。とりたてて整っているわけではないが健康そうで穏やかで、それなのにどこか子供っぽい雰囲気を漂わせている姿に、シャルは頭のどこかで鍵がかちりとはまる音を聞いた気がした。
 この青年――ジェフの、兄ではないだろうか。
 特に年齢が離れているわけでもなさそうな年ごろ、女将とも親しそうな態度、明るい茶色の髪の毛、瞳。酒が入って少し上気した頬は大人のもので鋭かったが、横顔がなんとなくジェフに似ている。
 鮮やかな青い目を見開いてまじまじと青年を見つめるシャルに、女将が説明をくわえようとしたのか口を開く。
 けれどそれよりも先に、シャルの後ろで嬉しさの極まったような悲鳴があがったのだ。
「兄貴、今日休暇だったの!?」
 青年はジェフの呼びかけにそちらのほうを振り向き、満面の笑みをうかべた。リルイースと同い年と言っていただろうか。あまりがっしりとはしていないが上背があり、まだ背の低い弟を見下ろしてその頭を撫でる情景が微笑ましい。
「急に暇になったんだよ。リルイースのところに行ったら、ジェフはクリューのところまで行ったって言うからさ」
「俺、今お客さんの世話してるんだよ。……ほら、あの」
 ジェフはシャルのほっそりとした身体を指した。
「シャルディーレさんっていうんだけど、ここでうたってるから」
 ジェフの兄はシャルを見てにっこりと笑い、その手を差し出した。
「はじめまして、ジェフの兄のアズレイです、いつも弟がお世話になりまして」
「シャルディーレ……シャル、です。ええと、こちらこそジェフにはいつも迷惑をかけて」
 差し出された手をとり、シャルは頭をさげた。だが、青い目や赤い唇にも淡い笑みを浮かべてこそいたが、内心気になることがあった。
(このひと、いったい何して稼いでるわけ)
 ひょっとしたらシャルのものよりも柔らかいのではないかと思えるほどなめらかな手のひらに、シャルはこっそりと嘆息した。大きくて少しごつごつしてはいるが、荒れて固くなった皮膚ではない。むしろ手はあまり使わない仕事をしているように見える。
 あまり不躾なのも気が引けるのでとりあえずそのことは胸の中へしまっておいたが、いつか機会があったらジェフにきいてみよう。
 シャルは最後にアズレイを一瞥し、いつもの定位置に向かった。
 すっかり顔なじみになった三十過ぎの男が今日もまた手を振った。ふたりの息子とすこし身体の弱い奥さんを大事にしているいい男で、シャルは常連のなかでも特に彼とは親しい。友人とともに頻繁にここを訪れる男は、シャルから見てなかなかにいい歌をうたう。
 彼からの注文で、歌がはじまる。
――流れゆく川。急流の崖に咲いた一輪の花。甘いにおいをふりまいて、優しい色合いを忘れずに風の中儚くゆれている。しっとりとした花弁に引き寄せられる小さな虫、そのちいさく可憐な花を永く残していくためそっと花にくちづける。
 高く澄んだ声でうたわれる歌を、シャルの目の前に陣取った男は至福の表情を浮かべて聴いていた。おそらく、妻のことを思っているのだ。
 自分の歌で笑顔を見せる人間がいる――それがシャルにはたまらなく嬉しいことだった。歌にはさまざまな力がある。笑顔を引き出す力、癒す力、気持ちを湧き立たせる力、怒りを鎮め人を優しくする力。
 彼女にはまだそんなに多くの力はないのかもしれないが、できるかぎりたくさんの人を幸せに、やすらかにできるだけの歌をうたいたい。
 それが彼女の夢の姿のひとつだった。
 昨年の冬、さんざん関節の痛みを訴えていた祖母が、旅立つときには不思議なほど苦しみのない表情をしていた。部屋には暖炉の炎が発する熱を行き渡らせ、隙間のないつくりの壁は冷気を撥ね退けて陽光だけをとりいれ、そして枕辺にはもっともうつくしい孫娘が座っていた。彼女は朝目覚めると祖母の部屋へ来て朝の歌をうたい、祖母の口もとまで食事を運び、ほとんど一日中そばについている。刺すような痛みを訴えられれば低くうたいながら身体を擦った。
 祖母に教わった「ダルメニィ」。祖母にうたった「ダルメニィ」。最期の瞬間、うたっていた子守唄。
 祖母は痛みのためでなく涙を残していた。司祭の祈りとそれにかさなる歌声とに見送られて逝き、若いころのみずみずしい美しさの片鱗をうかがわせる表情で眠りに就いた。
 シャルはそのときはじめて、かねてから切望していた力が自分の歌にも備わっていることを知ったのだ。
 そのことを思い出すと、瞳の奥が熱くなって、すこし目が潤んで、そのうち、涙が溢れてくる。すばやく瞬いて隠したそれが引っ込み、けれども喉をすべらせる。
 そのまま、音が跳ねた。前の音に忠実に放たれたその音が、喉に引っ掛かって上を向く。
 するりと、指がグラスを逃したような事故だった。ずれた音の余韻は既に過ぎ去り、なにごともなかったかのようにシャルはうたって客が聴く。けれども起こってしまったことをもとに戻すことはできなくて、シャルは大きな波のかたちをした後悔を必死で抑えこんだ。
 じっとこちらを見据えている一対の目がある。穏やかな茶色の瞳だ。穏やかなのに、なにひとつ見逃すまいとしている鋭い瞳だ。……それが怖い。
 今の失敗に、彼だけは気づいている。他の誰が逃してしまったとしても、彼はそれをとらえていた。それが理解できてしまうから、余計に決まり悪くなる。
 ささいな間違いのひとつにすぎないのに、どうしてこんなに罪悪感を抱かなければならないのだろう。
 なにごともなかったふうを装って最後までうたいきったシャルだったが、その日はいつもよりずっと疲労が肩にのしかかってきた。落ちこんだ湖の色の目が女将を見つめる。
 艶のある目で苦笑し、女将は杯を差し出した。
「シャル、どうしたの」
 ミスには気づかなかったが、シャルの様子がおかしいことは敏感に察したのだ。いつもは飲ませてくれない強い酒が満たされていた。
「ううん、ちょっと……あ、これ美味しい。あまいね」
「飲みすぎると倒れるよ。一杯だけだからね」
 喉をさらりと流れる甘い香りにすこし気分が上向いたが、女将からはしっかりと釘をさされた。そんなに強く喉をやく感じはしないが、普通の人間は甘くて口の中が溶けそうだと思うかもしれない。もちろんシャルは平気だった。
「――シャルさん、すこし……いいですか?」
 それは静かな声だったが、シャルは酔った肩をぴくりと震わせて振り向いた。あたたかい色をした目がまっすぐこちらを見ている。
「ええ、どうぞ」
 うたっている間中彼女が怖れていた視線はもうなりをひそめていたが、やはり居心地が悪い。アズレイはごくごく温和な、人柄の良い人物だが、なぜか彼を前にすると小さな子供が教師と向き合っているような緊張感を隠せない。
 アズレイはそんなシャルのこわばった表情に気づき、緊張をほぐすように微笑んだ。
「うたっているときもずいぶん緊張してましたよね。すみません、不躾に見て」
「いいえ――ただ、あんなに真剣に聴いてる方もめずらしいかと思いますけど」
 微動だにせず、杯を持った彫像のようになってシャルのほうを見ていたアズレイの姿を思い出し、シャルは言った。
「いつものあなたは、もっと楽しそうにリラックスしてうたっていると聴きました。つい、聴き入ってしまったんです。ひとつふたつ、音がはずれてしまったでしょう」
「あれはちょっと考えごとをしてただけで……アズレイさん以外の人は、たぶん気づきませんでした」
 まじめな顔をして言うシャルに、アズレイはうなずいた。
「そうでしょうね。とても良い歌でしたから、あれくらいの間違いは傷のうちに入らない」
 手放しで褒められて、シャルは軽く頭をさげた。感傷的にうたっても許されるものだったから助かった。そもそも歌の途中で素の自分に没頭するということが、あやまちにつながったのだ。これはナタリー・ウィンズがつとめているような舞台では決してしてはならないことだ。ただうたっているだけではいけない――うたい終わった瞬間から次の感情を押し出し、演じ、つないでいかなければならないからだ。
「ところでシャルさん、ジェフはどうです、元気でやっていますか」
「わたしも、都は初めてだから彼がいてくれて助かります。最近、わたしが毎日ここへうたいに来ていて……ジェフがついてくることがリルイースさんから出された条件なので、毎日クリューに会えて楽しそうですけど」
「リルイースは、いつもジェフを気にかけてくれていますからね。……あの子の家族は僕だけしかいなくて、普段は一緒にいてやれないものですから、クリューやリルイースがずいぶんジェフの支えになってくれています」
 はっきりとそれが語られたのは初めてだった。つまり、ジェフに親がいないことがだ。
 シャルは瞬間ためらってから、遠慮がちに口を開いた。
「もし――よろしかったら、ご両親のことをお聞きしてもいいですか」
 アズレイは周りに目を走らせ、ジェフとクリューがむこうの壁で男たちと話しこんでいるのを確認してから言った。
「母親は、ジェフが三つのときに他界しました。父は三年前に事故で死んでいます。僕はそのころ、まだまだ弟を養っていけるだけの稼ぎがなくて、ジェフを女将さんに預かってもらおうとしたんです。けれどあの子は自分も働きたいと言い出して――それで、グラバートのお屋敷に勤め口を見つけてきました。リルイースがジェフの保証人になってくれて」
「あなたとリルイースさんは、どうして知り合ったんです? あのひと、いつもいそがしそうに働いてて、たぶん屋敷の外に出ることも少ないんだって思ってたんですけど」
「……リルイースは、蒼皮を弾いているでしょう。
 アズレイは杯の中に残っていた琥珀の色した液体を一気に飲み干し、立ち上がった。
「いい歌を聴かせてもらいました、ありがとうございます。また、暇ができたらお邪魔したいと思います。……今から約束があるもので」
「こちらこそ、ありがとうございました」
 カウンターから扉までのわずかだが混雑した距離を足早に通り抜け、アズレイは扉の近くの卓を囲んでいたジェフとクリューに手をあげた。あまり話もできなかっただろうジェフはやや顔をしかめて兄を見送り、ちらりとだけシャルに視線をよこした。
 なんだか不思議な雰囲気の青年だった。
 顔立ちはジェフとよく似ているのだが、彼が五年前にジェフのようないきいきとした、子供っぽさの残る表情を見せていたかと言われると首をかしげてしまう。若いうちに両親を亡くし、弟とふたりきりになってしまったせいだろうか、どこか老成した感じが見える。
 シャルは基本的に姉さん気質をしているため、ああいった構う余地のない人間というのは付き合い方がうまく計れない。ジェフのような子供との距離ならば無意識のうちにとれるのだが、もともとの構いたがりとむこうの隙のない態度がぶつかりあうと、困って立ち往生してしまうのだ。
 消えゆく姿を見送って、シャルは詰めていた息を吐いた。
 甘いのか苦いのか、よくわからない人間だと思った。


 シャルの今まで知っていた常識では村でひとつの酒場に男たちが溜まる以外、あたりはしんと静まっているはずの時間、都はいまだにぎやかで明るくて、冬の半ばの寒い夜だというのに妙な熱気があたりに漂っていた。
 馬車の窓から見える人々はあたたかい色をした灯りに照らされて幸福そうな表情をしていた。寒くないのだろうか。暗闇にひとつ、太陽の色をした灯りが立っているだけで、骨の中心を貫くような寒さも忘れられるというのだろうか……。
 シャルはしっかりと窓を閉めていても足元から這い登る冷気に身を震わせ、袖を掴んで腕を擦った。都に来てから仕立てた服だ。あんなに恭しく型紙をとってもらうのも仕立屋が連日シャルのもとを訪れて経過を報告していくことも、彼女にははじめての経験でそして物慣れないことだった。もちろん全面的にグラバートの世話になってこそ可能なことだったが、なんとなく窮屈ではある。見えざる金貨と銀貨の重みに絡みつかれているようだ。
(きれいなんだけどねえ……防寒が甘いし、馬車で移動できるからこそ着てられるのよね)
 都に不案内だから馬車を使っているのか、馬車ばかりに乗せられているから都に慣れないのか、もうそれすらわからない。
 シャルは昼間は出かけない日もあったが、夜は毎日酒場へ行ってうたっていた。ジェフと御者とはそのたびに寒い中を出歩かなければいけないのだ。クリューとすごしているジェフはともかく、御者は馬を預けて中へ入ればと誘っても馬車を動こうとしなかった。五十過ぎの男性なのだが、身体は平気なのだろうか。
 そろそろ自由に動き回りたいと思うのだが、リルイースはそれを許してくれない。理由を聞いてみると、もう何年もレイルシュの面倒を見ていることからもわかるようにグラバートの当主はレイルシュを気に入っており、またその遠縁の娘であるシャルが滞在していると聞いたときには自分に娘がいないこともあってかひとつの不便も粗相もないよう指示を出したらしい。シャルは当主に会ったことはなかったが、リルイースは言っていた。
 ご当主は長男のカルファール様がとびきり美しい奥様をお迎えになるはずが、そのお嬢様の家へ婿養子に入ってしまったから気落ちなさって、なおさらシャルさんが快適にすごせるようはからってくださるんです、と。
 娘が欲しいのならアルディランを早く結婚させればいいだろうに、アルディランがこの年になって婚約ひとつしていない事情をシャルは知らない。けれどもこんな田舎から来た小娘を手厚く遇するグラバートの好意は、シャルの貴族階級に対する意識を変えるに十分だった。
 おそらく、グラバートの当主が気のいい人間であるというだけだ。けれどたったひとかけの好意が、身ひとつで故郷を飛び出してきたシャルにとってどんなにありがたかったことだろう。
 いくらレイルシュの遠縁だと言っても、グラバートがうなずかなければ屋敷に彼女の居場所はないのだから。
 いつか礼を言いにいかなければ、と思った。当主にとってはたいしたことのない施しなのかもしれないが、リルイースの言葉が真実ならきっと会ってくれるだろう。
 シャルは見たこともない花が刺繍された身頃を引っ張り、溜息をついた。
……寒い。
 震えた指先が、そっと馬車の座席を這った。かすかに伝わる振動が心地良い。けれど滑らかな革張りの席はひんやりと冷たくて、なんの解決にもならないことが悲しかった。
 酷使した喉がひくりと鳴った。思わず少し離れた場所にあったジェフの手をしっかりと掴んでしまう。
 シャルはそのあたたかさにほっと息をついたが、ジェフは弾かれたように顔をあげてシャルを凝視し、シャルが掴んだ右手を肩から緊張させた。
「……ごめん、ね……ちょっと寒くて」
 ジェフに触れている手はあたたかい。けれども背筋を突き抜ける寒気はおさまらず、シャルは握り締めた手に力をこめた。
「もうすぐ着くよ、リルイースさんに湯を使わせてもらえばいいだろ」
「そうね、湯浴みすればあたたまるわね」
 シャルは外の張りつめた空気を伝わる車輪の音に耳をかたむけ、背もたれに身をあずけて目を閉じた。意識がふっと沈んでは浮くことをくりかえす。
 それを破ったのは、ジェフのためらいがちな声だった。
「シャル……あのさ、兄貴と――何、話してた?」
「何って……特別なことは何も話してないわよ。あんたの様子はどうだとか、そんなことは聞かれたけどね。……そういえば、わたし今日うたってるとき少し音を外したのよ。あんたのお兄さん、それに気づいてた」
「へえ……俺、全然気づかなかったよ」
 どこか落ち着かない様子のジェフにシャルは首をかしげたが、身体の中を暴れ回る悪寒が酷くなり、声を発するのも億劫だった。いぶかしげにこちらを見やるジェフとつないだ手だけが熱いのだ。
 さすがになにかおかしいと察したか、ジェフはそっと白い額に手をやった。不快をあらわすようにきつく眉を寄せ、かるく微笑んでみせれば光を振りまくような清楚で可憐な貌をゆがめる。ジェフが手を引いたのは、おそらくそのなめらかな額の熱さにだろう。やや震えた声がかけられる。
「風邪とか……ひいた? すごい、熱いんだけど」
「そう――かも。ごめんねジェフ、少し寝かせておいてくれる? 着いたら起こしてくれていいから」
 ジェフは手をひねり、シャルの手のひらを握る指に力をこめた。それが心地良くて、同時に頼もしい。
 小刻みにゆれる身体から力を抜き、シャルは今度こそ暗闇に意識を落とした。
 沈黙が馬車の内部を支配するようになってからのジェフの表情も行動も、彼女は知らない。



サイト案内螺旋機構(小説目次)「輝の標」目次 / 「Thank you for the Music」目次前頁次頁

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送