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【11】 - in this way - 翌日からの一週間で、話はとんとん拍子に進んでいった。スケジュールが詰まっているということもあるし、九月に入ってからのスタートが慣例となっているクラスイベントはとにかくスタートダッシュが重要だと文実・生徒会側もクラスのほうも承知しているからだ。 今年は出し物の重複や集中がなかったようでスムーズに各クラスの案が通り、週明けには予算や文化祭当日の部屋割りなども発表されて、いよいよクラス単位での活動が始まったところだった。 当日までの流れや細かな手順、予算編成から材料調達の段取りにいたるまでをたったふたりで決めなければならない――その分、いざ準備が始まってしまえば少しは楽ができるのだろうが――クラス委員の小百合と達矢は、連日昼休みを潰して話し合いを続けていた。達矢と聖の席を占領し、文実委からのプリントやクラス内でとったアンケートを広げて協議を重ねる。 聖や理帆、創一は講堂や体育館が取れる限りは昼練に忙殺されており、他のクラブも似たような状況であるために今の時期、昼休みに自分のクラスに残っている人間はいつもよりもずっと少ない。 一部のクラブでは文化祭前でもクラブ活動時間外の練習や準備はしないらしいが、それでも運動部員はおおかた出払っているし、演劇部などの大所帯が抜けてしまうと教室は寂しくなる。 「……それでー、皆の当日の予定が出てくるのが二十日以降ってことは、それまでは家庭科室もとれなくて」 「今やれることって言ったら、室内と廊下の装飾やらメニュー作りくらいだな。メニューは峰と東條に任せてもいいか」 「多分、それでいいと思うけど。ええと、メニュー作りはさつきちゃん真希ちゃん」 小百合は机の上に広げていたノートに、さつきと真希の名前を書き込んだ。 「あと、学校の備品で使えるものって何かないかなあ」 「できればホットプレートと……あと、保温ポットなんかも家庭科から借りられればいいんだけどな」 「……ポット? ああ、あったかいものも出すんだ」 「冷たいものでも、できれば一度沸騰させてから冷やしたほうがいいな、念のためってことで。さすがに、ジュースやなんかは無理だろうけど。そのためにまた人手がいるな、氷の調達もあとで考えるか」 「それはまあどうにかなると思うけど……刃物は使わない?」 「メニューに果物を使うものが入ったときは、あらかじめすぐに使えるように切っておいたほうがいいだろうな。刃物は使わない方向で」 「じゃあ、火傷対策だけだね」 小百合は会話の中で決まったさまざまな事柄を、頭の中で瞬時に整理しながら次々と書き付けていく。走り書きのようなその書付は左側のページだけで、右のページには話し合いの結果を家に帰ってから順序だててまとめてあるのだ。 「あと今思いつくことは……?」 「ちょっと待て。ああ、そうだ、会計はどうする」 「ああ、そうだねー。そこ考えなきゃ……」 会計をどれだけスムーズに済ますかが、成功の鍵を握っているといっても過言ではない。 小百合は一度ペンを置き、ペットボトルからミルクティーを飲んでひと息ついた。 「どうしよっか。さゆは入り口に会計を置いて、先にお金払ってもらって会計が注文をメモに書けばいいかなって思ってたんだけど」 「食券みたいなもんだな。いいんじゃないか?」 それを受けて、達矢がノートの端に教室を表すらしい長方形を描いた。会計、クレープ、飲み物、と並べたあと、教室の半分を座席で埋める。 「こんな感じだな」 「クレープはどこでも食べられるから、座席はあんまりいらないと思うんだけど。だってほら、立ったままでも大丈夫だし、中庭とか校庭に持って出る人もいるかもしれないでしょ?」 「まあ、あって悪いことはないんじゃないか? 休める場所があってもいいだろうし、飲み物は零れると厄介だし」 「ん、そうだね」 文化祭までは、二か月弱あるようでいて実は時間がない。クラスのほとんどのメンバーはクラブに所属しているわけだから、どうしてもそちらのほうに比重を置いてしまう。宮森が四月、小百合と達矢にクラス委員の話を振ってきたのも、ふたりがクラブ活動をしていないからだろう。小百合のピアノのレッスンはあくまでも学校活動の時間外にやるものだし、その気になればピアノや予習復習の時間配分をうまく調整して余暇を作ることができる。 しかし、と、小百合は首をかしげた。 達矢はいったい、クラブにも所属せず何をやっているのだろうか。まさか勉強ばかりしているわけでもないだろう。達矢なら、フリーの時間すべてを勉強に費やさなくてもトップの成績を維持できるだろうから。 思い立ったらすぐに調べてみないと気が済まない性質の小百合は、そろそろ昼休みも終わるし雑談に突入してもかまわないだろうと判断し、達矢の肩をちょんと叩いた。 「ねえねえ、大滝君」 「……なんだ? まだ何か」 「大滝君って、どうしてクラブに入ってないの?」 「お前だって、入ってないだろ」 「さゆはほら、前に話したことあるでしょ、お父さんとお姉ちゃんが教会に通ってるから、そこの礼拝で奏楽させてもらってるの。それがまあ、クラブ活動みたいなものかなー」 ノートを閉じ、「文化祭の話はやめ」の姿勢を見せると、達矢もペンを置いて机に頬杖をついた。 「俺はただ、小学生のときからやってる習いごとが忙しくてクラブやってる暇がないだけだよ」 「だからー、その習いごとって何なの?」 「剣道だよ、剣道。水郷に剣道部はないからな、クラブなんてやらないで週四日の稽古に精を出したほうが時間は有益に使えるだろ」 「……剣道かあ……。さゆ、剣道のことはあんまり知らないけど」 達矢の横顔にかかる長めの前髪を見つめ、小百合は笑ってうなずいた。 「いいね」 「何がだよ」 あんまり知らない、と言っておきながら無責任な発言だと思ったのだろう、達矢はあきれた調子で呟いた。けれどその言葉に本気で小百合を見限っているニュアンスはなく、小百合は安心してそれを聞いていられるのだ。 やはり、自分よりもはるかに優れていると思う人に肯定されるのは気持ちのいいことだから、達矢には自分を否定して欲しくない。 「ねえ大滝君」 小百合は聖の席から手を伸ばし、達矢の前髪をかきあげた。とまどったような瞳がよく見えるように、まっすぐな髪の毛をおさえる。 「前髪、切ったほうがいいよ。邪魔でしょう。夏休みに切っておけばよかったのに」 「ああ――忘れてたんだよ。今度の休みに切りに行く」 「うん、そっちのほうが絶対かっこいいと思うよ。詳しいアドバイスはひーちゃんにもらったほうが確実だけど」 目が肥えてるからね、と付け足すと、達矢は苦笑して首を振った。 「別に、そんなのどうだっていいだろ」 「そうかなあ」 あたりまえのことだが水郷にもさまざまな性格の生徒がいて、身なりに気を遣う者もいればまったくかまわない者もいる。達矢は清潔で折り目正しく、学生らしい格好であればその他はどうでもいいというタイプだろう。 「大滝君の頭って、なんだかいいね――さわり心地が」 「髪の毛の感じってことか?」 「うん――あ、ごめんね」 達矢は特に嫌がるそぶりは見せなかったが、小百合は短く謝罪して彼の髪の毛から手を離した。すべての人間がそう考えているとは思っていないが、小百合にとって髪の毛を撫でるというのは愛情表現のひとつだから、好きでもない他人に髪の毛を触られるのは不快だろうかと考えるのだ。 それを言うと、達矢はやや間を置いてから唐突に手を伸ばした。 「……どうだ?」 「え?」 「いや……お前の中での人の位置付けがわかるバロメータなのかなと思って」 達矢がふんわりとした感触の黒髪を撫でると、教室内の幾つかの瞳がこちらへ向けられた。けれどふたりともそれにはかまわず、目があった一瞬に同時に吹き出した。 「大滝君には、撫でられても平気だよ」 五限目が始まる五分前の予鈴を聞きながら、小百合はささやいた。 「……水郷に入ってから、三人目だなあ」 昼練時の簡単な発声練習を下級生がしているそのとき、聖はひとりの二年生に声をかけられた。ショートカットの、これと言って目立つところのない子だ。一応部員全員の名前と顔を記憶してはいるが、個人的に話をした記憶はない。 谷野瑞希、そんな名前だった。目立たないが、堅実な仕事をする子。中二の学責も引き受けてくれた。 「どうしたの、谷野さん」 聖が声をかけると、瑞希は楽屋の中に聖を招き入れて小さな溜息をついた。 「お時間とらせてすみません、河東さん」 「うん、それはいいの。だから早めに済ませてね」 外見を裏切らず礼儀正しい挨拶から始める瑞希の言葉をさえぎり、聖はその先を急かした。 「あの――真由子の、ことなんですけど」 「芦屋さん? ……が、どうかしたの?」 聖の水郷で一番尊敬している先輩、芦屋小夜子の妹が演劇部の中二、真由子という。理帆の家のように、兄弟姉妹がそろって水郷という、遺伝的に学力が優れているのではなかろうかというタイプである。 「真由子、一昨日のことなんですけど、いきなり部をやめるだなんて言い出して。……まずあたしのところに話を持ってくるのはあたりまえのことなんですけど、突然だったから混乱しちゃって。それで、河東さんに相談してみようかと」 「どうしてあたしに? 部長に言えばいいのに」 中学の部長はD組の男子だ。 「確かにそうなんですけど……河東さんは真由子のお姉さんとも仲がいいって聞いてますし、真由子、河東さんにあこがれてるみたいなこと言ってたし、問題によっては男の子に話すのって嫌じゃないですか」 「それはわかるけど……ねえ、谷野さんはどうして、芦屋さんがやめるって言ってるのにそれを素直に受け入れられないの? 何か事情があるの?」 それを聖が反対に尋ねると瑞希はふっくらとした頬を片手で撫でて答えた。 「事情って言っても、あたしの方には何もないんです。ただ、真由子ってお姉さんのこと抜きにしても中二の中で発言権があるし、来年は中学の公演なら主役はれるくらいにがんばってもいるし、どうして急に演劇部をやめるだなんて言い出したのかわからなくて……」 「そうだね、確かに」 万事器用で衣装やメイクの重鎮だった姉の小夜子とは違い、真由子は明らかにキャストのほうが向いている。舞台映えのする顔立ちもそうだし、演劇部に入って鍛える前からよく通るいい声をしており、演技力もあった。 やや気が強い面も見えるものの、瑞希が自分は控えめでありながら暴走しがちな集団はきちんとコントロールしてくれるのとちょうど対になるような印象の統率力を持った、高校生になったら幹部のひとりとして立つだろうことが確実視されている部員のひとりだ。 部内でいじめにあっている様子もないし、嫌々活動をしている感じも見受けられない。確かに、真由子がやめたいというのは不自然だった。 「谷野さんにも、何も理由を話してないわけだよね」 「はい、いきなりで。とりあえずもう少し頭を冷やして考えてみろとは言ったんですけど、あの子のことだからどうなるか……」 弱りきった声音で瑞希は言った。しばしの間を置いて、ふと気づいたように付け加える。 「あ、でも、やめてどうするのかはちらっと聞きました。バスケ部のマネージャーになるとか、ならないとか」 「バスケ部? ……男バスに彼氏でもいるの?」 「そんな話は聞いてませんけど」 「だって芦屋さんが劇部をやめてバスケのマネージャーでしょう? よっぽどの理由がなきゃ、そんなことしないんじゃない?」 どうしてあたしがこんな話を、との思いはあったが、聖は途中で話をやめることもできずに瑞希と討議を続けた。 「そうなんですよね、軽い気持ちじゃあないだろうし、あの子がもう決めたならあたしにはどうしようもないかも」 真由子は、そのあたりが姉に似て頑固だ。それは真由子との付き合いが小夜子とのそれのように個人的な範囲に及んでいない聖にもわかっていた。 いつも側にいる瑞希ならば、なおさらだろう。 「困ったね、どうにかして残ってもらえないかな」 「文化祭が終わるまでは、いるでしょうけど」 下級生に媚びるつもりはないが、真由子が抜けるのも痛い話だと聖は思ったのだ。 「あ、河東さん、お時間のあるときでいいので真由子と話をしてもらえませんか?」 「……あたし? どうして?」 聖はにこりと笑った瑞希の顔を凝視し、長いまつげを羽ばたかせた。瑞希は練習を続ける一団の中の真由子を盗み見て言う。 「あの子、河東さん大好きですから」 「どういうこと?」 「よくいるじゃありませんか、キレイな先輩に憧れる子」 知っている。 けれども聖は、それは女子校の中での話だと思っていたのだ。水郷には男がいるのだから、関係ないと。 「確かにそうですよ、でもあたしが知ってる中にも、彼氏はいるんだけど先輩も好きってのはたくさんいます。河東さんなんて、クラブの後輩以外にも顔が知られてる筆頭ですから」 何人かの生徒の名前を、瑞希はあげた。なるほど確かに、聖でも顔と名前を見知っている先輩、あるいは同級生ばかりだ。 クラブに入っていないため親しい後輩はいないが、トップの成績をキープし続けていることで有名な宇野小百合や大滝達矢の名前、またバスケ部の吉野理帆の名前。親しい人間の中で創一の名前だけが挙がっていないのが惜しいな、と聖は思った。 ――いや、今はその話は置いておくべきなのだ。 「とにかく、あたしが芦屋さんに話を聞いてみればいいわけね?」 「はい。真由子のお姉さん――のほうは、さすがに無理でしょうし」 小夜子とは短い付き合いの――聖とて長い間ではないのだが――瑞希は、自信のない様子で言った。 「受験生だからあたりまえじゃない。……まあ、文化祭が終わるまでには一回話をしてみようかな」 「お願いします。……あ、河東さん練習は大丈夫なんですか」 今さらだが、瑞希は舞台の方向を見やって口もとに手をやった。聖は中学部長に手をあげてみせる。 部長は気に入らない人間には無愛想で冷淡な気配さえ見える聖を最大限クラブのために利用することのできる辣腕だ。そんな彼のことが、今の聖はあまり嫌いではない。もちろん、好きでもないが。 「呼んでる。じゃあ、行くね」 「はい。……よろしく、お願いします!」 瑞希は頭を下げ、同学年のスタッフのところへ駆け寄っていった。中二の後輩たちが今の瑞希と聖の会話を学責としての瑣末な用事と思っているのか個人的な相談と思い込んだかはわからないが、どうやら興味があるらしい。瑞希はあっという間に同級生たちに囲まれた。 公的な事務でもないが、私用と言い切ってしまうのも違うようなその用件。 舞台に立っていた真由子と目が合う。 睨み付けられたと思ったのは、気のせいだろうか。 とりあえず聖は、身近なところから攻めていくことにした。面倒だ、というのが本音だが、瑞希はなかなか好ましい後輩ではあるし、何より真由子は小夜子の妹だ。たとえ姉妹で性格はまったく違い、真由子と聖がいかにも対立しそうな個性を持っていたとしても、問題を放っておくわけにはいかない。 その日帰宅した聖は、昨年度の演劇部連絡網を取り出した。電話の子機を握りしめ、彼女らしくもなく緊張しながらボタンを押しかける。 押しかけて、気づいた。 家に電話して、もしも真由子が出たらやっかいなことになる。 溜息をつき、今度はメモを漁った。クリップで止められた中に、確か小夜子からもらった携帯電話の番号とメールアドレスがあったはずだ。 「……ないなあ」 しばらく机のあたりを引っ掻き回し、聖は頭を振った。困った、あれがないと小夜子とは連絡がとれない。 とりあえず、風呂にでも入ってからゆっくりと考えよう。 そう思ったちょうどそのとき、連絡網が床にひらりと落ちた。拾い上げて、自分の迂闊に気づく。 小夜子の電話番号は、連絡網の裏にメモしてあった。 それですっかり気が抜けてしまい、聖は床に座り込んだ。フローリングはひんやりしていて、九月はじめの夜も決して暑苦しくはない。彼女の家全体の空調が稼動しているということもあるのだが。 「もう何やってんの……今何時よ」 寂しかったわけではないがひとりで呟き、聖は壁の時計を見た。常識を完璧に備えているとは言えない両親に育てられてはいるが、人様の家に電話するときには何時まで、ということは教えられた。 しかし、小夜子は受験生だ。夜の八時は遅い時間ではないが、だからこそ家にはいないかもしれない。 結局聖は、夜の十時になってからようやく小夜子へ電話をかけた。思えば、携帯にかけるのだからそんなに神経質にならなくてもよかったかもしれない。 けれど小夜子は聖の尊敬するたったひとりの先輩だった。彼女に連絡をとるのに――しかも、妹の真由子のことで――気をつかわないわけがない。 電話がつながったその瞬間、聖は呼吸を止めた。 『――もしもし、河ちゃんでしょ?』 番号を通知しておいたのがよかったのか、小夜子はいつも通りの柔らかな声音でそう呼びかけた。 「さよ先輩……ですよね」 『あたりまえでしょ、あたしの携帯なんだから。……それで河ちゃん、どうしたの。個人的な用事?』 「個人的っていうか……」 聖は今日の練習で瑞希から聞いた話をできるだけ忠実に打ち明けた。小夜子は驚きの声をところどころに差し挟みながら、聖の話を聞き終える。 『……まゆが、ねえ』 軽い溜息をつき、小夜子が呟いた。 「心当たりとか、あります?」 『ううん、残念ながら。三年になったあたりから向こうも気をつかってくれてるから、前ほどは会話がなくなったし……』 「そうですか……」 『でも、クラブをやめるようなことにはさせないつもり、姉として。河ちゃんも、安心しておいて』 柔らかな声に、聖はほっとしてうなずいた。ひどい話だが、彼女にとっては真由子の事情を慮るよりも瑞希との約束を果たすことのほうが重要だったのだ。 「ありがとうございます、じゃあ、クラブでも少し様子を見ておきます」 『うん、お願いね。――じゃあ、河ちゃん、また何かあったら遠慮なくかけてきてね。ばいばい』 小夜子の声が途切れるのを確認してから、聖は電話を切った。小百合も理帆も自分から電話を切るのが苦手だというから身につけたことだが、ときどき小百合と理帆で話しているときはどうするのだろうと思う。 心臓が、いつもより速いテンポで命を刻む。 聖は受話器を戻し、ベッドに座って上体を倒した。 たかだか先輩に電話するくらいのことで、こんなに緊張したのは初めてだった。 小夜子は、特別。――その思いを深くして、そんな自分に苦笑する。どうしてだろう、確かに全身から近寄りがたい雰囲気を発している聖に積極的に話し掛けてくる先輩など小夜子くらいのものだったが、特別な付き合いはなかったはずだ。携帯に電話したのだって、これが初めてで。 小夜子は先輩だった。聖よりも長く生きていて、聖よりも大人だった。だから彼女は、心置きなく甘えることができる。 どうして。 どうして、あんなに良い友人と姉を持っていながら、真由子はその場所を捨てていこうとするのだろう。 聖はかすかな苛立ちを感じながら、首を振って起き上がった。 |
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